TARAKOアルバムレビュー


僕を大人にしたアルバム 1
あなたが大好き / TARAKO   BMGビクター BVCR-23 1990-11

TARAKOという人をご存じでしょうか。有名な仕事で言えば、「ちびまる子ちゃん」のまる子役等の声優さん。また、「まる子」全盛の頃には、”太郎と花子”という、お茶の間クイズ番組(ゴールデンタイムに30分)の司会もしていました。そんな彼女が「歌手」として活動していたのをご存じでしょうか? なんとフルアルバムを10枚も出す程の。
 僕がその事実を知ったのは、「まる子」ブーム全盛、小学校6年生の頃。地元のイベントで彼女が歌っているのを見た時でした。「おお。なんて素晴らしい曲なのだ」 さっそく母親に頼みCDを購入。さらに彼女との握手に成功。小学生の僕には初めてのライブ。そしてTVの中の人間に"触れる"というちょっとした事件。それは直接、"芸能人のパワー"として、僕を圧倒しました。しかし、その時圧倒していたパワーというのは、未知なる芸能人のパワーなどという、つかみ所の無いものだけではなく、その楽曲、その歌声として、確かにそのコンパクトディスクの中に収められていたのです。

楽曲レビュー
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・ 「悪魔になるの」
アルバムの1曲目を飾るのは、マイナーの雰囲気を纏うメロディックなバラード。当時の僕には衝撃でした。まずタイトル。  「悪魔」? しかも悪魔に「なるの」? それこそ、TARAKO=ちびまる子 のイメージしか無かった僕には、さっそく取り残された感がありました。今までアニメしか見てなかったのに、急にドラマが始まります。イベントでは分かりづらかった、彼女の歌声の細かい部分。そして一言一言が 映像に変わります。突然大人にされたような違和感と不安。しかしそれは、兄の部屋でエロいビデオを発見してしまった時のような、罪悪と好奇心も交えて。そう。この楽曲のバックグラウンドというのは、両極が同時に存在する 「混沌」です。白いものと黒いもの。子供と大人。男と女。天使と悪魔。
 彼女は言う。

遊びのままなら 愛しく抱けるのに
悪魔になるの  傷つけてあげるの
裏切ることは  とても楽しい

 これだけ読んでみると、非情な悪女のイメージを持ちませんか。だが違う。「じゃあ なぜ、あなたはそんな悲しそうなんですか? 愛しているんでしょ? 彼を愛しているんでしょ!?」
 外資系の会社に勤める年上OLのことが好きな、同じ部署の後輩。思わずそんな役になりきって、僕はドラマティックに叫んでみたくなるのです。(ちなみにこの場合、年上OLというのがTARAKO) 歌詞の内容と、歌声のギャップ。アレンジ面で特別な装飾をしなくても、彼女の場合、それだけですでにドラマです。

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 ・「夜〜close my eyes〜」
まずこの曲を聴いた上で僕は問いたい。「あなたは誰ですか?」と。もはやアルバム2曲目にして、「ちびまる子ちゃん」のイメージは粉々に砕かれました。 当時小6です。美しいピアノの旋律と、途切れそうな声で歌われるメロディ。「せめてもう少しだけ・・・」と願う、愛しい男性との夜。その風景は確かに、僕が描いていた「大人の夜」というものに限りなく近かったのです。当時小6です。付け加えるならばこの曲は、エロティックで官能的でセクシーで、という直接的な描写は全くありません。 ただ、そういう雰囲気に飲み込まれるのです。「空気になりたい・・」この曲のテーマはこれなのではないか、と今なら思います。官能的な部分は僕の妄想に過ぎません。 きっと、言いたかったのはこっちの方です。「愛しい人。この身を空気に変えて、あなただけを守っていたい。」それはつまり、現状のままの「身」では叶わないことなのです。ということは不倫? 少なくとも、叶わぬ恋です。声というのは、その曲の登場人物像に直接影響されませんか。この歌声を頼りに、この曲の中に僕が創った女性像というのは、 雪のように肌が白く、優しく、故に儚げで、どこか母性を持っていて、髪はセミロングで、下着は黒なのです。 当時小6です。心に響く歌というのは様々ですが、一曲目同様、この曲から得られるものというのは、ドラマティックな脳内映像です。優しく美しい音色とメロディに導かれて、たどり着くのは脳内マジック。 今年24になります。

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・「あなたが大好き」
ところで、「アルバム」というものをどう捉えますか。そのアーティストの作品。 冒険的な楽曲入り、故に自己紹介。割と短いスパンの”集大成”。もしくは、そのアーティストの人格そのもの。例えばここに、古くから伝わる ひとつの名曲があったとします。Aメロのつかみが素晴らしく、Bでは小気味良いリズムにのせられ、サビのメロディに涙し、ギターソロの旋律にあの日を思い出す。と、あえてその名曲を細分化した上で 感想を述べたなら、こんな風になったとして、でもそれは、直接 そのアーティストの評価、そのアルバムの評価、には成り得ないのではないでしょうか。 あくまで、その楽曲。結論として、細かい評価を重ねても、なかなか全体の評価にはたどり着かない。もしも、もっと大きな枠組みで評価したいならば、細かい評価は必要とされない。こんな空気を僕は感じる。 だからこそ許されるのが、「冒険」 というやつでしょう。そのアーティスト、そのアルバムの持つ、イメージへの挑戦。積み重ねてきたものが壊れるかも知れないけれど、「でも創りたい」というアーティスト達の野望。実験的冒険曲。アルバム「あなたが大好き」のタイトル曲「あなたが大好き」 それが、このアルバムの冒険曲です。
 一例として、下記のデータをご覧下さい。

某人気バンド ○○○ / アルバムタイトル  ×××
   曲名       曲の評価(ポイント)
    1. △△△       78p
2. △△△       60p
3. △△△       85p
4. ×××       89p (タイトル曲)
5. △△△       63p
6. △△△       94p (シングル曲)
7. △△△       71p
8. △△△       13p (冒険)
9. △△△       67p
10. △△△       92p

 例えばこんな感想を持ったとします。この場合、”一曲”の評価に対する、”アルバム”としての評価への影響はほとんどと言っていい程ないのでは無いでしょうか。大体、どれも良い曲。 全体的バランスも取れている。 故に、「良いアルバム」「好きなアルバム」です。と、こうなるのではありませんか? がしかし、ごく希にこんなケースがあります。

某人気バンド ○○○ / アルバムタイトル  ×××
   曲名       曲の評価(ポイント)
    1. △△△       78p
2. △△△       60p
3. △△△       85p
4. ×××       12p (タイトル曲)
5. △△△       63p
6. △△△       94p (シングル曲)
7. △△△       71p
8. △△△       43p
9. △△△       67p
10. △△△       92p

 あからさまにタイトル曲だけはずしている。 冒険をするにも程がある。アルバムとしてのバランスを見失ったプロフェッショナルのまやかし。いや、そもそもアルバムのタイトル曲は、そのアルバム全体を通したイメージが盛り込まれているのではないのか? テーマを伝える重要性は、その曲にあるのではないのか? そこをはずすのはマズくないのか? タイトル曲までは5曲。 いよいよ、その次にやってくるのが冒険です。その間の5曲というのが、とても音楽性豊かで、詩の世界観もスッと入り込んできます。ジャズやシャンソンの風味を取り入れたアレンジも素晴らしく、彼女自身の歌声もその音色に溶けていく様。音楽として完成されたものになっているのです。また、その完成度、イメージ、テーマは、タイトル曲(冒険)を挟んだ、後半4曲にも受け継がれており、一つのアルバムとして捉えるならば、これは名盤。と言っても良い。いや、言いたいです。 それほど素晴らしいのです。ただ一曲を除けば。
 なんだよ、このふざけた曲はよ 今、インターネットで調べたところ、このアルバムタイトル曲 「あなたが大好き」は なぜかアニメソング系列に並べられていまして、つまりは作らされた感のある、言ってみれば ”仕事” ってやつですね。 この曲は。今知りました。しかし子供ながらに 、「なぜか一曲だけ違うよなぁ」という感想は確かにあり、浮いている、という言葉を体験したのも、その時が初めてかもしれません。つくづく僕を成長させてくれます。
 一体これは何なのか? アルバムに入れる必要があったのか? そもそも何で、これがアルバムタイトルになるのか? ちなみに、TARAKOは 「あなたが大好き」 をリリースする前に、すでにフルアルバムを5枚出しています。あくまでデータとしてですが、そのうち収録曲のタイトルが、そのままアルバムのタイトルになっているものは6枚目にして、このアルバムが初めてです。なるほど。何かいろんなものが見えてくるようです。今現在、僕は 音楽をやっておりますが、何年経っても僕を成長させてくれる このアルバムを、 「必聴!」 と言わずになんと言いましょう。ぜひ、一度 お聴き下さい。

追記
 例えどんなにマイナーでも、例え誰からも愛されなくても、例え正しい解釈が出来なくても、例え非生産的な行為でも、自分が「良い」と感じるものを「良い」と言える人が、僕は好きです。そりゃあ 流行に乗るのは安全ですけどね。その波は、自分が行きたい場所に連れていってくれるとは限らないのですし。

〜written by 音楽ライターお茶の葉 〜



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