玉置浩二『今日というこの日を生きていこう』アルバムレビュー

玉置浩二約8年ぶりのソロアルバム『今日という日を生きていこう』は、安全地帯の復活・休止を経たあとに、作詞家・松井五郎を再び作詞に迎え、自作詞と半々という配分の上に、先行シングル「愛されたいだけさ」、昨年発売されたシングル「しあわせのランプ」のカップリング曲「7:30am」を加えた形となった。元々筆者自身、'80年代当時からの安全地帯のファンでもあったが、ベストアルバム『ベスト・ハーヴェスト』を除き、玉置浩二のソロアルバムを、頭から一枚聴き込んだのは、実はこれが初めてである。

なので、あまり突っ込んだことは言えないかもしれないから、アルバム全体の印象を伝えるくらいに留めておこうかと思う。

一聴してみると、これが案外さらっと聴けてしまう。できるだけ細部にまで神経を行き届かせるために、イヤホンでもう一度しっかりと聴き込んでみる。すると、玉置氏自身の大らかなヴォーカル含め、全体的にゆったりと自然体で、かつ、さりげなく作り込んだ音作りがなされていることに気が付く。

なごみ系、とでも言うのか、プレーンでナチュラルなギターサウンドが、聴いていて耳にとても心地よい。これは決して都会では作れなかった作品だったろうなあ、と思うと同時に、現在、妻である安藤聡子夫人と数匹の猫たちと共に、信州は軽井沢で暮らす玉置氏の穏やかな心象がくっきりと垣間見れたような気がして、とても柔らかな気持ちになった。これは玉置版"優しい時間"?(笑)

作詞に関しても、松井作品と玉置作品との作風の境界線があまりなく、互いに無理なく溶け合っていて、その中で玉置氏が、普段生活の中で感じているであろう、自然と共に生きている実感のようなものが、優しくやわらかく立ち上がってくる。

何のてらいもない、素直でストレートな言葉づかい中心の松井作品と共に、玉置氏の作詞の表現力も、以前にも増して格段に向上したらしく、素晴らしく自然に伝わる何かがある。両者ともに、優しさと、しなやかな力強さを同時に感じる。

爽やかで等身大、素朴であったかい。少し濁りを含んだ歌声でもあるし、またときに「蕗の傘」など、まったりし過ぎな印象を残す作品も中盤にあるが、それさえも歳を経たからこそ、表現することのできる穏やかさ、なのではないかと感じるのだ。パチパチとはぜる焚き火を前に、ゆったりとした時間が流れていくような。。穏やかなギターの音色に、そんな情景が目に浮かぶ。あらためて軽井沢は、玉置氏にとって静けさが包む常世の楽園なのだと思う。

"今日というこの日を生きていこう"という、決して大袈裟ではないが、明確なテーマを掲げ、ただ単に過ぎていく日々を惰性に見送っているのとは違う、確固とした胸中の意思表明を感じた。これでいいんだ。僕たちは、これで生きていくんだ。

という。生きていくということは、至極当たり前で平凡なことの繰り返しではあるけれど、実はその積み重ねが大事で、とても大切にしていきたいことなのだと、あらためて気づかせてくれた作品群だったかもしれない。

かつて'80年代初頭、安全地帯としてメジャーデビューを果たした玉置氏ら5人の若きメンバーたち。確かに、玉置氏の作り出す珠玉のメロディと共に、当時のヒットチャートになくてはならない伝説的アーティストとなった彼らだったが、当時ヒットした歌謡曲風・シティポップス風のその作風は、彼らが本当にやりたい音楽と必ずしも一致するものではなかった。

そして20年余りが経過した現在も、当時の作風を支持し復活を願うファンとの葛藤は続いているようである。そんなファン心理と思惑をよそに、何かに疲れたように、玉置氏は'90年代半ばから始めたソロ活動において、自身が望む形での音楽活動を黙々と続けてきた。

その拠点もいつしか東京から軽井沢へ。そして傍らには常に、三度の結婚の末ようやくめぐり逢えた最愛の妻、聡子夫人が。

そして一旦解散、活動休止となった安全地帯は'02年、待望の再結成を果たす。かつての同胞でもあった松井五郎氏を作詞に迎え、再びバンドメンバーが一堂に会した。しかし一見その再会は円満なものに見えたが、昨年('04)玉置氏の活動は、結局ソロに取って返すことに。再結成中に出した2枚のアルバムでは、様々な試行錯誤や葛藤が見られ、再結成後2枚目の『?』

では、松井氏がアルバム制作から脱退、松井氏以外の作詞家(黒須チヒロ氏)起用での再スタートともなった。

某誌(婦人公論)でのインタビューにて、再結成時の安全地帯はソロに近い作風になったと玉置氏は語っていたが、実際、全盛期の頃の安全地帯からは考えられない程、作風が一変したと筆者も感じていたし、おそらくそれは、今後の(歳相応の)新生・安全地帯を予期させる、よい変化であったのだと信じてもいた。そして、今回のソロアルバム『今日というこの日を生きていこう』。

一聴してみて、これからの玉置氏であり安全地帯は、ソロとバンドとの区切りが、それほど必要ではないのではないかという気さえした。今となっては、双方の明確な境目はあまり感じらず、そのことが暗示するのは、渋みを増し歳を経たからこそ得られた、新たな萌芽なのだと。そこからは、かつて北海道・旭川でバンド活動を始めた当初の彼らの心境が、今になって、ありありと垣間見れるような気がする。あの頃、ひたすら純粋に清々しいものを音楽に求めていた音楽少年、玉置氏のなくせない心情が。

静かな決意がひしひしと伝わる「明かりの灯るところへ」。眠れるファイティング・スピリットを思わせる「僕のすべてを」。

何もないことさえ新しいはじまりにできると爽やかに歌う「風の指環」。穏やかな春の陽差しに"君"という人と共に歩けることの幸せを思う「ひかり」(本作は、盲導犬協会のテーマソングでもある)。そして筆者が最も心動いた「グライダー」では、あるがままに生きることの喜びを、まるで我がことのように感じた。

その他、まるで玉置氏や安全地帯の行方を予感させる「夜行船」や、また、どこかかつての安全地帯の作風を思わせる「愛されたいだけさ」や「UNISON」では、渋みの効いたギターと共に野性的な風情で視聴者を飽きさせずに惹きつける。どこか、何かを信じてみたくなるような、真実を潜ませて。

何かこれといった特別な仕掛けや大仰な感動があるわけではないが、全体を通して聴くうちに、遠赤ストーブ(はたまた炭火か)のように、じんわりしみじみと伝わってくる柔らかな温もりを感じる。それは既に、売れる売れないといった次元のすべてを超越しているかのように、どこまでもゆったりとした余裕とあたたかい安心感とに満ちている。まるで、あくせくした世の中や俗世の穢れとは無縁のもののように。。まさに、噛めば噛むほど心に沁みてくる、そんな良作に仕上がっている。

よく熟成し発酵したワインのように、大人のバンド、またはソロ活動というのは、たとえ第一線から身を引いたとしても、そのよさは決して声高に叫ばずとも、自然と語り継がれていくものになるのだと思う。ワカるやつなら、きっと解ってくれる。売れるモノだけが必ずしもよいものとは限らない。いつか近い将来、そのことを玉置氏は(安全地帯は)身をもって証明してくれるのだろうか。

ジャケット写真などで、非常によい表情(かお)をしている玉置氏を見ていると、"やっとここまで辿り着くことができて、よかったね"と、純粋に祝福してあげたい気持ちになる。飾らない人柄が滲み出る玉置氏らしい、地味ながらも満ち足りた、とてもよい表情だと思う。

〜written by 音楽ライターluca 〜
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